Vol.2 Taku Tanaka starring Taku Tsutamitsu / Takuya Nagaoka FRAME

MOVIE

Clip1:2012.7.14 Sat 2:00 PM [ MAP:A ]

 妹が病気になって、三ヶ月が経つ。
 妹はなかなか良くならない。医師の話を聞いても、快方に向かっているのかどうか、まるで分からない。もうすぐ治りそうと言われているようにも聞こえるし、治りそうもないと言われているような気もする。
「結局、良くなってるんですか?」

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「予断を許さない状況ですし、経過を待ってみないと何とも言えませんが、兆しが見えそうな気配もなくはありません」
 経過を待たないと分からないと言われている時点で、兆しが見える気配がなくもない、と言われたところで、結局、何も言われていないに等しい。
 医師は、二ヶ月前から同じ意味のことを、言葉を変え表情を変え、彼に伝え続けてきた。医師というものは、容体が変わらないことを患者や身内に伝え続ける、そのボキャブラリーだけは豊富なのかもしれない。

 中目黒を流れる目黒川沿いの道を、彼はいつも病院から歩いて帰る。夏には厚い緑の屋根が道を覆い、穴だらけの屋根から濾された木漏れ日が、路面や水面(みなも)にまだら模様をつけた。蝉が途切れなく鳴きしきるこの道を歩くたび、幼少期に歩いた田舎の一本道を思い出した。東京都内の裏通りが、深い田舎の道と重なりあう。街中の風景に、田舎の空気が混じり合うこの小道が、彼も妹も好きだった。
 そもそも、この辺りに先に住んでいたのは、妹の方だ。兄が同じ街に引越しを決めた時、始め彼女は大いに反対した。

Clip2:2012.7.15 Sun / 6:00 PM 【MAP:B】

 ある時、妹に用があって中目黒に来て以来、兄、拓(たく)はこの街が気に入り、ついには引っ越しを決めてしまった。
 妹、美奈は兄妹で同じ街に住むのが、嫌だった。拓はまったくそういうことが気にならないのに、美奈はとにかく反対した。結局、美奈の反対を無視して拓は中目黒に引っ越した。彼も、一度こうと決めると、説得に応じない人間だった。

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 二人が初めて駅でばったり出くわした時は、お互いなんだかむず痒かった。でも、それも最初のうちだけ。数ヶ月も経つと、次第に慣れてきて、駅で出くわしても、喫茶店や本屋でふと見かけても、ああと軽く挨拶をかわせる間柄に落ち着いた。

 「兄妹で同じ街に住むのって、ほんと、うっとうしい」

  よく大学の友達にそうこぼしていた彼女だったが、慣れてしまえばなんてことはなかった。

Clip3:2012.7.15 Sun / 8:10 PM 【MAP:B】

 それでも二人がわざわざ時間をとって会うことはなかった。
 中目黒でお茶をしたこともなければ、食事に行ったこともない。何か話さなければならないことがあっても、だいたいメールで済ませ、電話もほとんどしたことはなかった。拓が電話をしても、忙しいのか後回しなのか、妹が電話に出ることはなかった。

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 父が出張で上京した時、みんなで一緒に会ったのも中目黒ではなく、父の泊まっていた新宿のホテルの近くだった。母が友達との温泉旅行の道すがら、会おうと言って集まった時も、せっかくだからと渋谷のホテルのちょっと高めのレストランで会食した。

  そんな帰り道にあっても、兄と妹は黙りこくって電車に揺られ、中目黒の駅前で、じゃあと言ってそっけなく二手に別れた。

 父と母は、いつか、二人で中目黒に来たいと話していた。
「今度はそうしよう」
 必ず話には出るが、実現することは、ついにそれまでなかった。
 父と母の願いが果たされたのは、妹が入院してからだった。

   妹が入院してから、全てが変わった。

Clip4:2012.7.19 Thu / 8:50 AM 【MAP:B】

 彼女が入院してからというもの、同じ駅圏内に住んでいたことがとても役に立った。
 今では習慣となった妹のお見舞いにも通いやすく、何か急な頼まれ事をされても、フレキシブルに対応できた。
 はじめの頃、彼女もあれやこれや、気兼ねなく用事を頼んできた。

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 入院すると急にわがままになるのだろうか。兄だから気兼ねがないのだろうか。奔放に用事を頼んでくる妹に、はじめのうち彼も律儀によく動いた。
 しかし一ヶ月も経つと、それもだんだん億劫に感じられるようになった。さらに月日が過ぎると、不思議なもので、次第に慣れてくる。そしてやがて、むしろ妹と会っていないと、どこか物足らない気持ちにすらなってきた。
 妹との間柄において、そんな気持ちになるのは初めてのことだ。
 お見舞いに、毎日通ったこともあった。
 病院に通いながら、たくさんの話を妹と交わすようになった。
 今まで話してこなかったたくさんの会話を、妹と話せたのは、入院のおかげだったと言ってもいい。
 
 不思議なことだ。
 彼女がこうして入院してからのほうが、自分との血のつながりを意識できた。

Clip5:2012.7.19 Thu / 10:13 AM 【MAP:B】

Clip6:2012.7.21 Sat / 3:20 PM 【MAP:C】

Clip7:2012.7.22 Sun / 1:01 PM 【MAP:D】

Clip8:2012.7.22 Sun / 1:01 PM 【MAP:D】

Clip9:2012.8.19 Sun / 5:01 PM【MAP:E】

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CAST

蔦光 拓成(つたみつ たくみ)

1979年11月9日生まれ。神奈川県出身。
吉本興業・東京NSC第4期生として入所。漫才コンビを組み、台本を担当する。コンビを解散後、吉本興業を退社し、舞台俳優として活動。
以降、北区つかこうへい劇団、劇作家・演出コースに入所。
2010年、劇団・凱嘉團(がいかだん)を旗揚げ、主宰。

永岡 卓也(ながおか たくや)

1985年5月31日生まれ。長野県出身。
主な出演作に、ドラマ『コドモ警察』『恋するアプリ』『ラストマネー ~愛の値段~』『ジョーカー 許されざる捜査官』、映画『宇宙刑事ギャバン THE MOVIE』『少年メリケンサック』、舞台『ミュージカル黒執事』『シャッフル』など。
2013年3月20日公開映画『コドモ警察』に出演している。
オフィシャルTwitter https://twitter.com/TakuyaNagaoka

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STAFF

監督・脚本・編集:佐藤 信介
音楽:上田 禎
プロデューサー:小村 幸司
助監督:松本 動 助監督:市原 孝敬
カメラ:与那覇 政之
照明・録音:清井 俊樹

ヘアメイク 合田 和人
スタイリスト:渡邊 とも子
水彩画:Hama-House
ロゴ&ページデザイン:八田 哲一
ウェブ:いむらシンサク
協力:ヒラタオフィス
企画・製作・提供:Angle Pictures

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